〝2022年の小田原の農業〟と、
関わる人たちの想いを背景に描く、小田原版ミュージカル
『しあわせのタネ』

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

農家の高齢化、後継者の不在などにより、担い手不足や耕作放棄地(※1年以上作物が作られず、再開する見込みもない農地)の存在が課題となっている日本。
その中で、徐々に野菜づくりのかたちは、〝形が整ったものを効率よく大量に生産する〟流れと、逆に、化学肥料や農薬を使わない有機農業など、〝形が不揃いでも安全で美味しいものを手作業で生産する〟流れとに大きく分かれ、試行錯誤しながら歩みを進めています。
そんな〝農業〟に着目し、「毎日、自分や家族、子どもたちが何を口にしているのか、みんながもっと普通に知るきっかけをつくることができないか?」という思いでつくられたのが、ミュージカル『しあわせのタネ』でした。

2014年に東京・山梨・山形で初演、以降定期的に公演を重ねつつ、会場も各地へと広げていった同ステージは、2018年には小田原でも上演、記憶に残る舞台となりました。
コロナ禍に入ってしばらく公演はお休みとなっていましたが、2022年、いよいよ物語もキャストも新たに、その活動を再開することに。
小田原でも11月17日、三の丸ホールにて4年ぶりの上演を迎えます。

このミュージカルの特徴のひとつが、各公演地域の農業シーンへの詳細な取材。
特に今回制作陣に強いインスピレーションを与えたのが、4年の間に小田原で起こっていた、ある〝新しい動き〟でした。
そんな小田原の農業への取材の様子と、それらによって命を吹き込まれた、2022年小田原版ミュージカル『しあわせのタネ』について、今回は紹介したいと思います。

〝小田原の農業〟の特徴

小田原の農業といえば、代表的なのは、〝梅〟や〝みかん〟や〝稲作〟。
中でも〝梅〟の栽培は歴史が古く、特に梅干しの効能が、兵糧や箱根越えの際の弁当の食材として、戦時下の物資として、時代時代のニーズに合致していたことから、重宝されていたのではと考えられています。
もちろん〝みかん〟も歴史は古く、片浦や早川、曽我や国府津など、それぞれの土地に段々畑のスタイルが適していたこともあり、長い間栽培を継続、市民にも親しまれてきました。
ただ、1970年代初めにその価格が大暴落したことをきっかけに、他のフルーツや野菜への転作を行った農家も多く、現在ではみかん専門の農家は少なくなってきてるとも言われています。
また〝稲作〟も、明治時代〜高度経済成長期に入る前の頃までは小田原の農業の中心だったと言われる、地域には馴染みのある生産物。
他にも、梨、柿、玉ネギ、茄子、ほうれん草、大根、近年ではキウイフルーツなど、様々なものが小田原では生産されています。

市民参加型の「〝ワイン用ぶどう〟をつくる」プロジェクト!

そんな小田原の農業のトピックの中で、『しあわせのタネ』の制作陣が特に気になっていたのが、農家だけではなく一般市民も参加型のプロジェクト「〝ワイン用ぶどう〟をつくる」という活動。
舞台は小田原市石橋地区にある元みかん畑。
ここを、小田原にとっては未知の生産物である〝ワイン用ぶどう〟の畑として再稼働させよう、という試みでした。
農業再生と耕作放棄地の問題に実践者として向き合いたいと思っていた前市長の加藤憲一さん、農地の持ち主である「FMおだわら」社長の鈴木伸幸さん、活動に共感した市内のベーカリー「Atelier Weizen SAE」オーナーの神戸さえさん、市内の企業「Hamee」創業者の樋口敦士さんの4人を代表世話人として、市内外からも数多くの人たちが参加。
開墾整備から始めて、2021年3月には約700本の〝メイヴ〟(湘南産のワイン用ぶどうの新品種)を100人以上の人たちの手によって植樹、2022年3月には隣接地に約300本を追加植樹、同年8月には約60人の人たちによって約70kgを初収穫。
長野県内の醸造所に委託して、9月には56本のワインが完成しました。
生育状況がよく、3年かかると想定していた速度を1年も前倒す速さでした。
今回は完成した数も少ないため、ワインは研究用として保存することになり、販売はしませんが、来年以降はより多くの収穫・醸造を目指す予定だそう。
今後は、たくさん人が小田原産のぶどうによるワインを味わえる機会が増えていくかもしれません。

〝この風景を守りたい〟という想い
使命感が耕作放棄地をよみがえらせ、
新しい命を生み出す

取材スケジュールとしては、脚本家の坂口理子さんを中心としたチームで、7月上旬には、前述のワインぶどう畑、8月下旬には、曽我地区、久野地区、石橋地区、栄町、9月中旬には、下中地区、再び曽我地区、10月に入って、穴部と、市内の多くの農業に関わる人たちのもとを訪問しました。

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

ワインぶどう畑では、代表世話人・加藤さんによる、開墾してぶどうが実るまでの詳しい話を丹念に聞き取り。
坂口さんは、〝海が見えるワイン畑〟がとても印象に残ったと話します。
「暖かく、さわやかな風が流れる明るい場所…青空が似合うぶどう畑だと思いました」
曽我地区では、新規就農や農業体験をしたい人たちの橋渡しをする市民団体「そがやまみらいプラン」、みかん栽培の講師も務める「杉﨑農場」、そがやまみらいプラン代表で農地の害獣駆除問題に取り組むJAかながわ西湘理事の本多さん、果樹や園芸を手掛ける「曽我ガーデン」。
久野地区では、有機農業に取り組む「小田原有機農業研究会」「自然園いしわた農園」の石渡さん、新規就農者の「SOMAfarm」。
石橋地区では、様々な果樹栽培に取り組む「矢郷農園」。
下中地区では、玉ねぎを栽培する志澤さん(「志澤誠の小田原玉ねぎ」)。
また、栄町では「井上種苗店」を訪れて〝小田原で栽培されている色々な野菜の種〟の話をうかがい、穴部では、小田原初演の頃から坂口さんが探し続けていた〝地場産のネギ〟の話も、縁がつながり聞くことができました。

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

写真提供:しあわせのタネ小田原実行委員会

取材を通して、共通して感じたのは、〝この風景を守りたい〟という、小田原の農業に関わるみなさんの想いでした。
「子供たちに、何とかこの景色を伝えていきたい、その使命感のようなものが、耕作放棄地を再びよみがえらせ、新しい命を生み出していると感じました」

これらの取材で受け取った言葉、感じた想いが、小田原版ミュージカル『しあわせのタネ』に命を吹き込みます。
具体的には、ワインについては、劇中の〝乾杯の一杯〟として、生み出された物語と共に登場。
もちろん、ミュージカル全体の背景としても深く浸透。
「〝景色を守っていきたい〟というみなさんの想いは、タネをめぐる物語の根底に流れるテーマとして、散りばめさせていただきました」と坂口さん、「物語の芯が根ざす土台をしっかりと支え、豊かなものにしてくれていると思います」。

2022年11月17日の公演日。
小田原版『しあわせのタネ』は、どう私たちの前にその姿を現してくれるのでしょうか。

2022年の舞台は
「三の丸ホール」
マルシェも同時開催!

当日の会場は、昨年オープンしたばかりの新市民ホール、通称「小田原三の丸ホール」。
今までにも数多くの舞台やコンサート、展示会、イベントなどに活用されている、注目のホールでの、4年ぶりの公演となります。
〝小田原ふるさと大使〟でもある俳優の合田雅吏さん、近年小田原に移住された歌手の澤田知可子さん、南足柄市出身の俳優・冨田浩児さん…と、地域に縁のある方々が新たなキャストとして加わっているのも、大きな話題のひとつです。
また、建物前の広場では、『しあわせのタネ』のコラボ企画として、地域産の野菜の販売などを中心としたマルシェも開催!
施設一体となってミュージカルを盛り上げていきます。
チケットは、近隣地域の主要なプレイガイドや施設の他に、まちの書店や飲食店などでも販売。
インターネット上のサイトから購入することも可能です。

2022年の〝小田原の農業〟、そして、関わる人たちの想いを背景にした、小田原版ミュージカル『しあわせのタネ』。
マルシェや野菜、新しいホール、ミュージカルを楽しみながら、物語のテーマである「いのちの源は、どこから来るか?」について、ひとりでじっくりと、共に見た人と語り合いながら、想いをめぐらせてみてはいかがでしょうか?

2022年小田原版ミュージカル『しあわせのタネ』
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公式サイト http://shiawasenotane.jp/
Facebook   https://www.facebook.com/tanetori
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日時|2022年11月17日(木) 昼公演 14:00-16:00 / 夜公演 18:30-20:30
会場|小田原三の丸ホール大ホール
申込|https://peatix.com/event/3346592

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