【西口周辺エリア】
古の歴史と文化、
生活の気配に満ちた、
もうひとつの小田原の風景
小田原駅に降りるとある、「東口」と「西口」という2つの選択肢。
東口は、多くの商業施設が並び、路線バスの発着所であるロータリーもある、いわば小田原の〝表玄関〟。繁華街へ、観光スポットへ、海へと、訪れる人を誘います。
一方の西口はというと、東口とはまた雰囲気の異なる、どちらかというと生活の気配に満ちた〝裏玄関〟のような存在。実際に地元の人には昔から「裏駅」と呼ばれ親しまれています。
新幹線口とも言われており、新幹線通勤にアクセスがいいことでも馴染みがあるかもしれません。
また今春には駅前に大型マンションもでき、これから更なる開発が予定されているエリアでもあります。
そんな西口周辺には、小田原をかたちづくってきた歴史、生活とともに育まれてきた文化、ここに暮らしてきた人たちの息吹が、今も根づいています。
今回は、そんな知っているようで意外と知らない「西口周辺エリア」について、紹介したいと思います。
落ち着いたまち並み
こだわりの商店群
西口を出てすぐに目に飛び込んでくるのが、勇ましい北條早雲公の銅像。
高さ5.7m、重さ7tというこの像は、早雲公の小田原城奪取の姿を描いたものといわれています。
そのとき小田原城があったのが、西口から左手にある高台・八幡山。
北條氏の五代に渡る統治の間に、お城は今の城址公園の位置へと移り、城下は総延長9kmに及ぶ〝総構(そうがまえ)〟で囲われるようになりました。
現在の駅周辺には武家屋敷が並び、その山側は寺地だったといわれています。
エリアの落ち着いた空気は、そうした歴史が由来しているのかもしれません。
武家町だった駅前には、今はそれぞれにこだわりを持った個人商店などが点在し、チェーン店とはひと味違う魅力でまち並みを彩っています。
昭和レトロといった趣きの店内やメニューは、大人世代には懐かしく、また若者世代には新鮮さを感じさせます。
その変わらない姿は、西口前の風景の象徴ともいえる存在です。
オーナー自らフランスなどの海外や国内で買い付けたこだわりの品々が、フロアにセンスよくディスプレイされています。
「ケルン」や「CHEMIN」の建物から坂を上っていくとあるのが、本格ジェラート専門店「LABORATRIO」。
ジェラート専門店「LABORATRIO」
日本酒「しずく会」
コピーの通り、たくさんの日本酒から好みや気分にあったものを選び、地元の肴とともに味わうことができます。
レストラン「ベジフルダイニングさかい」
地元産の野菜やフルーツをふんだんに使った料理は、健康志向の方にも地域の食材を味わいたい方にも人気を博しています。
緑豊かな寺地
高台の住宅街
寺地の雰囲気そのままに、天正18年創建の大稲荷神社や、その境内の愛宕神社・錦織神社、北村透谷の墓所として知られる高長寺などが並んでいます。
〝だいなりさん〟の愛称で親しまれている大稲荷神社は、お祭りの盛大さでも知られますが、境内にあるたくさんの狛犬や、日光東照宮で有名な左甚五郎による彫刻、小田原の職人さんによる正七角形の絵馬など、工芸文化の面でも多くの特徴を持っています。
大稲荷神社
また、谷津は地元の人が穏やかに生活を送る住宅地でもあります。
個人経営のお店が、日常に溶け込むようにひっそり営みを続けているのも特徴かもしれません。
焼き菓子専門店「Natural sweets Toitoi」
民家カフェ「そう㐂庵(そうきあん)」
白秋が愛した
自然豊かな散歩道
「赤い鳥小鳥」をモチーフとしたタイル
「小田原はどちらかと伝ふと海より丘や山の方が趣が深い。こんないいところは外にない。」(白秋全集より)
大正7年から15年までの間小田原に住んだ白秋は、特に城山の伝肇寺の近くに居を構えてからは、家族とともに頻繁に裏山の散歩を楽しんだことが知られています。
雑誌「赤い鳥」による童謡運動の高まりもあり、白秋の童謡の才能が花開いたのもこの時期といわれます。
植物に囲まれた自然の中で、家族や小田原への愛に満ちた眼差しをもって、白秋は多くの美しい作品を生み出したのです。
そんな白秋に敬意を表し、暮らした場所や歩いた場所、作品世界を感じることのできる場所をめぐる道が、後年、「白秋童謡の散歩道」として整備されました。
童謡「赤い鳥小鳥」をモチーフとしたタイルを道標に、今も多くの人がその道を歩いています。
「西口周辺」という、駅からごく近くのエリアだけでも、その息吹を感じることができます。
場所によっては坂道も多いですが、高台からの圧倒的な見晴らしは、上りの大変さを忘れられるほどです。
暑さもやわらぎ、歩くのにも心地のよい季節。
散歩がてら、いつもとはひと味違う小田原の風景を楽しんでみてはいかがでしょうか。